#155

第63回日本矯正歯科学会大会
『矯正歯科医療の新しい風〜国民の健康と心豊かな生活を求めて』
スタッフ一同


2004年11月17日〜19日の3日間にわたって、福岡国際会議場・福岡サンパレスにて『矯正歯科医療の新しい風〜国民の健康と心豊かな生活を求めて』をテーマに第63回日本矯正歯科学会大会が開催されました。私達はそのうちの二日間参加させていただきました。

臨床セミナー 『骨と歯周組織の再生』
「歯周組織の再生ー重度歯周病患者への矯正治療」
スエーデンデンタルセンター  廣岡秀明先生
 歯周病とは、歯牙に付着したバイオフィルムによって引き起こされる炎症を伴うある種の感染症である。歯周病治療は、疾患の原因であるポケット内のプラークを除去し、縁上プラークのコントロールにより再感染を防ぎ、その進行を止めることである。
 健康な歯周組織の回復においては、80年代後半スウェーデンから組織誘導再生法(GTR法)が導入され、その有効性が報告されている。また90年代後半からエナメル基質タンパク(エムドゲイン)を使った、歯周組織再生法(True periodontal Regeneration)の臨床応用がスタートした。
 矯正治療においては、治療前・治療中のプラークコントロールは不可欠であり、レントゲンにおける正確な診査・診断が必要であることをおしゃっていました。
 "全ての歯肉炎が歯周炎を引き起こすわけではないが、全ての歯周炎は歯肉炎から始まる"

「骨組織の再生」
インプラントセンター九州  中村社綱先生
 失われた組織の再生は、医学における研究・臨床の重要なテーマの一つ。歯科領域においても同様に、喪失した歯の再生、歯周病により喪失した歯根膜・セメント質の再生(新付着の獲得)、外傷や嚢胞・腫瘍の摘出手術などによって失われた骨の再生などに対する研究は、かなり以前よりなされてきた。今日では、歯胚再生も実験レベルではあるが可能となり、歯根膜・セメント質・骨組織再生は臨床で用いられ、予知性の面からも評価されるまでに。
骨組織の再生はインプラント治療の発展に伴って注目され、骨形態が不利な場合や、上顎洞や下顎神経の存在によりインプラントの埋入深度が制限される場合に、骨造成の手段を得ることで適応症を拡大できるようになった。
  医科における再生医療:人工臓器 → 臓器移植 → 再生医療 
  歯科における再生医療:人工臓器=インプラント
      歯科臨床において歯周組織・歯槽骨の再生は夢の治療法である
骨再生のメカニズム
  骨伝道:インプラント材、骨補填材(自家骨・DFDB・Bioss)による骨再生
  骨誘導:GBR(遮断再生法)による骨再生
  骨形成:移植
 インプラントの唇舌側に1mmの骨壁が存在することで骨組織が長期に維持できる
骨再生の将来展望 → 幹細胞、再生培養骨移植

スタッフ&ドクターセミナー『口腔ケア・予防』
「早期齲蝕検出法とその意味」

大阪歯科大学 口腔衛生学講座  神原正樹先生
 健康日本21とは、厚生労働省の2010年の健康づくり政策であり、第1次予防を重視し、3才児におけるう蝕ゼロを80%にすることを目標としている。
 現状としては、健康志向の向上、フッ素の普及などにより、治療中心の時代から予防を中心とした時代へと変化しており、その結果、う蝕は減少傾向にあるといえる。歯科矯正医療においても、予防とその応用が必要とされる。高濃度フッ素またはゲルによるう蝕予防、または補足的にクロルヘキシジンの使用、さらには早期う蝕検出法(QLF法)によって、レントゲン写真では分からないう蝕を知ることにより、早期発見、早期治療へとつながっていく。

「矯正治療患者のう蝕(脱灰)予防」
日本歯科大学歯学部付属病院 総合診療科  鈴木 章先生
矯正治療で起こりうる事故
 ・エナメル質の脱灰 ・エナメル質の破折、磨耗 ・歯髄炎 ・歯根吸収 ・歯肉炎、歯周炎 
 ・アレルギー ・外傷 ・TMJ、顎関節症
脱灰の可能性
 矯正患者:2〜96%  矯正治療歯:15〜85%
 脱灰の部位については(頬側歯頚部において)上顎中切歯、側切歯に多く、犬歯、小臼歯においては下顎に多いと言われている。
重要なのは
 ・う窩形成前う蝕(脱灰)の予防と進行停止 ・う蝕ハイリスク患者をローリスクにする
う蝕進行と対策
 う窩ができる前=1次予防(再石灰化処置)
 う窩ができた後=う蝕処置、修復 →う蝕再発の予防
※矯正治療はう蝕(脱灰)リスクが大きい!
 1.矯正治療の時期:萌出間もない歯はカリエスになりやすい
 2.対象患者の年齢層:口腔衛生維持の能力や技術が十分でない可能性がある
 3.歯の萌出部位:歯の萌出部位が悪いと、口腔衛生の維持が困難である
 4.矯正装置:唾液の自浄作用を低下。プラークの付着部位が増加する。歯頚部のブラッシングが困難。
       バンドだけで五倍の細菌増加
矯正治療開始前に!
 ・う蝕リスクの評価 ・食事指導 ・口腔衛生管理指導 ・う蝕、歯周病の診査・治療
矯正治療に伴う歯質の脱灰を防ぐために
 1.Basic Caries Prevention
  ・食事指導 ・口腔衛生管理指導 ・フッ素配合歯磨材の使用 ・定期検査時のPMTC
 2.Additional Caries Prevention
  ・キシリトールガム(タブレット)の使用 ・フッ素応用の強化 ・バーニッシュ
  ・フッ素ジェル、洗口剤、飲料水の応用
 3.Intensive Caries Prevention
  ・徹底的なPMTC ・3DS

記念講演1「人をつくるー3Dコンピューターグラフィックスによる仮想人体の制作」
九州大学大学院芸術工学研究院 教授  源田悦夫先生
 現在映像としての仮想身体は、劇場用映画やゲームなどエンターテイメントへの利用と共に、自律した仮想人体モデルとして各種物理シミュレーションのモデルとして研究がなされている。
 またその研究は現在、コミュニケーションの為の仮想人体として各種分野への応用を目指している。容易に表情のコントロールができるキャラクターやアバターの制作、伝統芸能のデジタルアーカイブスへの応用などの研究と共に、医学・健康教育の分野への適用をすすめている。現在、コンテンツ制作を医学、システム工学の研究者らと共に行っており、男らしさ、力強さ、色っぽさといった人体の持つ感情的な表現、芸術的感性を仮想人体にあたえることにより、広範な適用が可能になると思われる。

JOSフォーラム1『日本矯正歯科学会からの報告』
「矯正歯科治療等における口腔衛生管理に関する提言」
愛知学院大学歯学部 歯科矯正学講座  後藤滋巳先生
 矯正歯科治療は決して受け身の治療ではなく、矯正歯科治療の目的を達成するためには、不正咬合の改善を順調に行う上で、また衛生的な口腔を維持する上で、患者ならびに家族の努力と協力が重要であることも良く説明し理解と同意を得ておくことがとても重要。
 矯正治療の特殊性
 ・不正咬合の存在による自浄作用の低下
 ・矯正装置の使用(可撤式、固定式)    → 患者の理解と協力を必要とする
 ・治療期間が長期に及ぶ
矯正歯科治療等における口腔衛生管理に関する提言
 1.矯正歯科医療等の患者の口腔環境:歯垢沈着、不潔域の増加、形態的不調和や咀嚼不良のため自浄
                  作用の低下を生じやすく、う蝕や歯周疾患の誘因の一つ
 2.口腔衛生状況の診査と記録
 3.保健指導(治療前・装置装着時・保定):Plate等では装置の汚れもチェックする
 4.口腔衛生管理の自己責任
   →患者、その家族、歯科矯正医、歯科衛生士、技工士ら相互の協力体制を確保
               ↓
           安全に行うことができる
           装置の使用や口腔衛生におけるリスクについても受療者側の自己責任が伴う

「矯正治療時におけるう蝕及び歯周疾患に対する取り組みについて」
医療問題検討委員 大竹矯正歯科  大竹正人先生
 アンケートの結果から、ほとんどの医療機関においてモチベーションをあげるために、TBI、視聴覚機材の利用、歯ブラシのプレゼント、カリエスリスクの判定、カウンセリングなどを行っていることがわかった。しかし治療開始時に比べ、う蝕や歯周疾患が悪化傾向にある場合の10%程度というものが最も多く、さらに治療中にう蝕や歯周疾患になった人は自院や他院にて治療をし、それでも改善が認められない場合、装置を一時外したり患者と保護者の方との話し合いの場を設けていることがわかった。

JOSフォーラム2『矯正保険診療のコンセンサスを求めて』
「保険診療の仕組み」
医療問題検討委員会委員 かきうち歯科医院  垣内康弘先生
保険診療は「契約診療」⇒「知らなかった」は通用しない
保険診療の基本的ルール・・保険者と保険医療機関の間の「公法上の契約」
診療報酬請求の根拠は診療録(カルテ)にある
 レセプトの傷病名はカルテの傷病名と一致していなければならない
 カルテの保存=5年 → 10年は保管が必要(記入はペンで)
 レントゲンフィルム=3年
 帳簿=3年ノ完結日から(日計表なども含む)   未装着物の保存=5ヶ月


【感想】

 2日間の学会はとても内容の濃いものでした。今回の学会はう蝕や予防など、衛生士向きの講演がたくさんありました。講演が多かったために、学術展示に時間がとれず、あまりゆっくり見ることが出来なかったのが残念です。神原先生の早期う蝕検出法(QLO法)は、初期のう蝕を発見することができ、隣接面など見えない所まで正確に判定できるため、う蝕予防にとても有効だと思いました。今までは、レントゲンで発見されたう蝕は治療の対象になりますが、QLO法で発見されたう蝕は初期のもので予防の対象になります。「ここが危険ですよ。」と患者さんに説明しても自覚症状がなければピンとこなく聞き流される可能性が高いと思います。JOSフォーラムでは、矯正治療を始めるにあたって、口腔内を十分に知り、口腔衛生管理を継続的に行い、患者さん、家族、そして私達スタッフとの相互の協力があって、成立するものだと感じました。これからも、患者さんの心と体の健康と、それを維持していくために努力していきたいと思います。